人身事故への切り替えに関するQ&A

人身事故への切り替えに関するQ&A

Q加害者の方から警察に事故の報告をしないでほしいと言われたのですが,応じてよいのでしょうか。

A

1 警察への事故報告は法律上の義務

 道路交通法72条1項では,交通事故が発生した場合の警察への報告義務を定めています。

 報告義務を負うのは,「当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員」とあり,加害者のみならず,被害者も含むと解されています(昭和44年12月17日東京高裁)

 したがって,警察への事故報告を怠ると,道路交通法72条1項違反となるため,加害者の求めに応じるべきではないといえます。

2 交通事故報告書が発行されないため,各種請求に支障が生じる

 また,警察に交通事故の報告をしないと,自動車安全運転センターから「交通事故証明書」が発行されません。

 交通事故証明書は,特定の日時・場所にて交通事故が発生したことを示す重要な証明文書です。

 交通事故証明書が発行されなければ,当該交通事故の存否が明らかでないとして,賠償請求手続や,ご自身の保険会社に対する保険金請求手続が認められないといった不利益が考えられます。

 事故が比較的軽微であっても,あとから身体に痛みが生じたり,場合によっては後遺症が残ることもありますので,適切な治療や賠償を受けるためにも,警察に事故の報告を行うようにしましょう。

Q交通事故で怪我を負いましたが,人身事故に切り替えるメリットやリスクは何ですか。

A

 交通事故では,怪我をした場合でも,人身事故への切り替えをしなければ「物件事故」として取り扱われます。

 医師の診断書を警察に提出すると,物件事故から人身事故に切り替えることができます。

 人身事故に切り替えについては,以下のメリットやリスクなどが考えられます。

 

1 人身事故に切り替えるメリット

⑴ 軽微な事故・怪我であると誤解されない

 人身事故に切り替えない場合,事故や怪我の程度が軽微であることが理由だろうと,誤解を招く可能性があります。

 実際にそのような理由であれば問題ありませんが,加害者の免許停止・免許取り消しが可哀相だから人身事故に切り替えなかったなど,別の理由に基づくことは少なくありません。

 事故や怪我の程度が軽微であると誤解されると,後遺障害の等級認定の審査において不利に働き,適正な等級認定の獲得の妨げとなりかねません。

 また,示談交渉においても,事故や怪我の程度が軽微であれば精神的苦痛の程度も大きくないとして慰謝料減額の事情として主張されることもあります。

 人身事故に切り替えれば,このような不利益を被ることはありません。

 

⑵ 実況見分調書が作成される

 人身事故に切り替えると,警察により,当事者立会のもと,実況見分が行われます。

 実況見分の結果に基づき事故状況の詳細な内容が記載された実況見分調書が作成されます。

 実況見分調書は,公平な警察官が作成したものとして,一般的に高い信用性をもつと考えられています。

 したがって,当事者間で事故態様についての主張が食い違い,過失割合で揉める事案では,人身事故に切り替えておくことで,事故態様を示す証拠として実況見分調書を用いることが可能となります。

 

⑶ 加害者に適正な処分がなされる

 人身事故に切り替えなければ,物損事故として取り扱われるため,加害者に対する刑事処分,行政処分は基本的にありません。

 事案にもよりますが,加害者に対して適正な処分を求められる場合には,人身事故に切り替える必要があります。

 

2 人身事故に切り替えることによるリスク

 被害者の過失により,同乗者や加害者が怪我を負った場合,人身事故扱いとなると,被害者に刑事処分や行政処分がなされることがあります。

 これに対し,物件事故扱いである場合には,基本的には刑事処分や行政処分を受けることはありません。

Q人身事故への切り替えはいつまでにした方がよいですか。

A

 人身事故への切り替えの期限について明確に定めがあるわけではありません。

 もっとも,事故発生から時間が経過すればするほど,当事者の記憶は曖昧になり,また,証拠関係も失われていくため,警察が事故状況の詳細を把握することが困難となります。

 そのため,警察は,事故発生から相当期間経過した場合には,人身事故への切り替えの受理を嫌がる傾向があります。

 できるかぎり早期に人身事故への切り替えをされることをお勧めします。

PageTop